かつて1万種類だった日本の名字が、今後減少し、最終的には1つの姓に集約される可能性があるって知っていますか?
現在の日本では結婚の際に夫婦同姓が法律で義務付けられていることから、毎年約50万組の結婚により50万の名字が消えているんです。
この記事では名字の減少と将来予測について掘り下げていきます!
日本の名字は何種類?
日本の名字の歴史を振り返ると、江戸時代には把握されていた名字は約1万種類程度でした。
しかし明治時代に大きな変化が起きます。
1875年に新政府は名字の使用を義務づける太政官布告を出し、それまで名字を持たなかった庶民も新しく名字をつけて登録するようになりました。
これにより名字の数が爆発的に増加したんです。
現在の日本の名字の種類については諸説あります。
名字研究家の丹羽基二氏は1996年に『日本苗字大辞典』を刊行し、日本には約30万種以上の名字が存在するという説を唱えました。
一方で、10万種類程度という見方もあり、正確な数の特定は難しいようです。
いずれにしても、日本は世界的に見ても名字の種類が多い国として知られています。
これは日本人が「同族」という意識よりも「家」の意識を重視し、同族でもあえて名字を変えたり、地名を用いて「家」を明確にしたりしてきたからだと考えられています。
結婚で名字が消える
日本の民法第750条では、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏(姓、名字)を称する」と規定されています。
つまり結婚すると夫婦のどちらかが必ず姓を変えなければならないという「夫婦同姓制度」が法律で定められているんです。
この夫婦同姓を義務付けているのは、世界中で日本だけです。
内閣府の調査によると、2023年に婚姻した夫婦のうち94.5%(448,397組)が夫の姓を選択し、妻の姓を選択したのはわずか5.5%(26,344組)にとどまっています。
つまり、毎年約45万人の女性が結婚を機に名字を変えていることになります。
現在の日本では、国際結婚の場合を除いて「夫婦別姓」を選ぶことはできません。
選択的夫婦別氏制度の導入については長い間議論が続けられていますが、まだ実現していないのが現状です。
500年後、日本人全員が「佐藤さん」に?
このまま夫婦同姓制度が続くと、日本の名字はどうなるのでしょうか?
東北大学経済学研究科の吉田浩教授は興味深いシミュレーションを行いました。
日本で最も多い「佐藤」姓の増加率を分析した結果、選択的夫婦別姓が導入されず夫婦同姓のままの場合「約500年後の2531年には、佐藤姓が100%に達する」というシミュレーション結果が導き出されました!
吉田教授は厚生労働省の人口動態統計をもとに、「佐藤」姓の人口変化を分析しました。
2022〜2023年の1年間で佐藤姓の人口は0.83%伸びており、この増加率が続くと仮定すると、2446年には日本人の50%が佐藤姓となり、約500年後の2531年には日本人全員が「佐藤」になるという結果になったのです!
これは仮説に基づくシミュレーションですが、日本の名字の多様性が徐々に失われていくことを示唆しています。
毎年50万組が結婚し、夫婦同姓により毎年50万の名字がなくなっているという現状が続けば、名字の種類が減少していくのは避けられないでしょう。
選択的夫婦別姓で名字は守られる?
もし選択的夫婦別姓が導入されたら、名字の減少スピードは変わるのでしょうか?
吉田教授はこの点についても検証しています。
労働組合の連合が2022年に実施したアンケート調査をもとに、結婚で夫婦同姓を希望する割合を39.3%とした場合、佐藤姓の年間増加率は0.325%に下がり、全員が佐藤姓になるのは800年ほど先送りされて3310年になるとしています。
さらに興味深いのは、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」のデータを基にした試算です。
それによると2531年には日本人の人口は28万1866人にまで減少し、3310年には22人になると推定されています。つまり、名字が「佐藤」に100%収束する前に、少子化によって日本人自体がいなくなる可能性が高いという指摘もあるんです。
吉田教授は少子化と同姓婚の問題が関連していると指摘しています。
「日本では婚姻と出産とを強く結びつける考えが根強いうえ、同姓婚は結婚への大きな障壁となっている。名字を変えなくても結婚できるようにするなど、柔軟な制度があれば出生率が上がるのではないか」と述べています。
結婚と名字の関係が変わる?
名字に対する考え方は時代とともに変化しています。
かつて明治時代に導入された夫婦同姓制度は、実はキリスト教の「夫婦一体」の教えに由来し、「男性が女性を養う」「家事育児介護は妻の役割で夫は外で働く」ことを前提としていました。
日本は明治30年以前は夫婦別姓が一般的だったのが、明治31年(1898年)に「家制度」とともに「夫婦同姓制度」が法制化されたんです。
約120年を経た現代では、女性の社会進出が進み、自分の名前で社会生活を営む女性が増えています。
内閣府の「男女共同参画社会に関する世論調査(2022年)」によると、結婚して名字が変わっても、「職場では旧姓を通称として使用したい」と考える人が4割近くにのぼっています。
また、夫婦の姓が同じことについて「相手と一体となったような喜びを感じる」(39.7%)という肯定的な意見がある一方で、「自分のアイデンティティが失われるような寂しさを感じる」(29.3%)という声もあります。
名字と個人のアイデンティティの関係がより重視されるようになってきているのです。
名字の減少は避けられるのか?
日本の名字は今後も減少していくのでしょうか?
技術的には選択的夫婦別姓の導入によって名字の減少スピードを遅らせることは可能と考えられています。
経済界からも選択的夫婦別姓の導入を求める声が高まっており、2024年に経団連は選択的夫婦別姓の導入を求める提言を初めて公表し、国会での議論を急ぐよう求めています。
また、名字の減少問題を考える上では、少子化問題も無視できません。
吉田教授が指摘するように、名字を変えなくても結婚できる選択肢があれば、結婚への障壁が下がり、出生率向上にもつながる可能性があります。
いずれにしても、名字は個人のアイデンティティと深く結びついており、社会制度の変化によって今後の多様性が大きく左右される可能性があります。
名字の減少は避けられない流れなのか、それとも制度変更によって歯止めをかけることができるのか、今後の議論が注目されます。
同じような名字ばかりに?
名字は単なる呼び名ではなく、その人のアイデンティティや歴史、文化の一部です。
日本の名字の多様性は世界的に見てもめずらしいものであり、それが失われていくことは日本の文化的な損失とも言えるでしょう。
現在の制度が続けば、500年後には全員が「佐藤さん」になるという予測は、名字の多様性について考える機会を与えてくれます。
名字の減少は避けられないのか、それとも制度変更によって多様性を保つことができるのか。
この問題は単に名前の問題だけでなく、個人のアイデンティティ、伝統文化の保存、さらには少子化対策にも関わる重要な社会課題となっています!!